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ニュースリリース

2025年12月16日

岡山大学との共同研究:皮膚特性を短時間に数値化できる計算モデルを開発~皮膚状態の変化を捉え早期の皮膚トラブル対策に期待~

アルケア株式会社(本社:東京都墨田区、代表取締役社長:伊藤 克己、以下「アルケア」)の技術研究部の共同研究グループ、岡山大学学術研究院保健学域放射線技術科学分野の中村隆夫 教授の共同研究グループは、保湿機能などに関係する「皮膚バリア機能」の定量的な評価の実現を目指しており、これまでに皮膚の表面(以下、角層)における「電気の流れにくさ(電気抵抗)」と「電気の溜まりやすさ(電気容量)」の測定結果から、角層の厚さと角層の水分量を推定するモデルを研究・開発してきました。

今回、これまでの研究から、角層の電気抵抗と電気容量から皮膚の水分蒸散量を推定できる計算モデルを開発し、測定時間わずか5秒の皮膚測定機器を試作しました。この機器を用いると、事前準備なども含めて合計5分程度で測定が完了します。
皮膚の水分蒸散量は、皮膚バリア機能の評価値として長く用いられてきましたが、従来の測定方法では、測定自体に約20秒、事前準備なども含めると合計15分以上かかっていました。さらに、測定環境の制限や複数回の測定推奨も相まって、臨床現場での積極的な利用が進んでいませんでした。
今回開発した計算モデルを利用すれば、「角層の厚さ」「角層の水分量」「皮膚の水分蒸散量」を同時かつ瞬時に評価できる可能性があります。皮膚バリア機能評価の臨床応用への促進や、皮膚科学、看護学、化粧品開発などの領域でも活用が期待できます。

本研究成果は、2025年9月2日「Journal of Medical and Biological Engineering, 45巻591頁~599頁」に掲載されました。

発表のポイント

  • 「皮膚バリア機能」の指標となる「皮膚の水分蒸散量」※1は、経皮水分蒸散量計で評価しますが、測定環境の制限と測定時間の長さから臨床現場では採用が進んでいません。
  • 経皮水分蒸散量計の代替として皮膚の角層における「電気の流れにくさ」と「電気の溜まりやすさ」から水分蒸散量を瞬時に推定できる新たな計算モデルを開発しました。
  • 臨床現場でも「皮膚バリア機能」を簡便かつ定量的に評価できる可能性があり、皮膚トラブルの予兆を捉え早期からの予防的ケアの実現に期待できます。

研究者からのコメント

岡山大学中村教授の顔写真 肌のバリア機能評価のため、角層の厚さ、角層の水分量および皮膚の水分蒸散量の3要素を同時かつ瞬時に推定できるモデルを開発し、測定装置を試作しました。今回の研究結果が疾患、加齢、美容などあらゆる皮膚科学領域においてお役に立てればと思います。

岡山大学学術研究院保健学域 教授 中村隆夫

発表内容

現状
皮膚には、外からの刺激やアレルギー物質の侵入を防いだり、体の中の水分が逃げないようにしたりする「皮膚バリア機能」があります。この皮膚バリア機能が弱まると、アトピー性皮膚炎やアレルギーなどが起こりやすくなることが知られています。そのため、皮膚の状態を数値で表して評価することが期待されています。これまで皮膚バリア機能を調べる方法として、皮膚の水分蒸散量を経皮水分蒸散量計で測る方法が広く使われてきました。この方法は長年にわたり、多くの研究で広く使用されています。しかし、この測定方法を正確に行うためには、温度や湿度環境などを厳密に管理し、測定前にしばらく安静にするなどの準備が必要です。また、空気の流れを遮り、測定器の中の水分を取り除いたうえで一定の力で皮膚に測定器を当てるなど、操作にも細かい注意が必要であり、複数回の測定が推奨されていることから、所要時間は合計15分以上になります。このように、測定には時間や手間がかかるため、病院などの現場や日常生活の中で手軽に使うには難しいという問題があります。そこで、経皮水分蒸散量計に替わる、もっと簡単な測定方法の開発が求められています。

研究成果の内容
今回、皮膚の水分蒸散量を推定する新しいモデルを開発しました。これまでの共同研究で、「電気の流れにくさ(電気抵抗)と電気のたまりやすさ(電気容量)によって、角層の厚さと角層表面の水分量を推定できること」、「角層の厚さや角層表面の水分量が皮膚からの水分蒸散に関係していること」を明らかにしてきましたが、「電気の流れにくさ」と「電気のたまりやすさ」という2つの値から、皮膚から蒸散する水分の量を推定できるのではないかと考えました。皮膚から蒸発する水分量を示したイメージ図実際にこの仮説を検証したところ、下図の結果が得られました。

左下図:予備実験の解析結果 右下図:検証データの解析結果
予備実験の解析結果と検証データの解析結果を示すグラフ

測定実施:アルケア株式会社
試験対象
  対象数:25 名
  年齢:平均 40.8歳 ( 最小 28 - 最大 63 )
試験方法
  1被験者毎に洗浄のみ行った箇所とテープによる角層剥離後に洗浄を行った箇所をそれぞれ、経皮水分蒸散量計と研究開発段階の皮膚測定機器(試作機)で測定を実施し、結果を比較した。

社会的な意義

これまで「皮膚バリア機能」の評価に使われてきた"皮膚の水分蒸散量"を、「電気の流れにくさ」と「電気のたまりやすさ」という2つの電気的な性質を組み合わせることで推定できる可能性を見出しました。この方法により、従来は難しかった病院などの臨床現場や介護施設、さらには多くの人を対象とした大規模なスクリーニングの場でも、皮膚の状態(角層厚、表面水分量、皮膚の水分蒸散量)を簡単かつ迅速に評価できるようになる可能性があります。今後は、皮膚トラブルがある状態での評価可能性を検討していくことや、見た目や感覚だけでは分からなかった皮膚の状態の"数値化"により、誰もが自分に合ったスキンケアを行い、健康な肌を保つことが当たり前になる社会の実現を目指して研究を進めてまいります。

論文情報

論文名:An alternative approach based on skin electrical impedance to determine transepidermal water loss for skin barrier function assessments

掲載紙:Journal of Medical and Biological Engineering, Vol. 45, pp.591-599, 2025

著者: Osamu Uehara 1,2, Takao Nakamura 2
 1 Medical Engineering Laboratory, ALCARE CO., Ltd., Tokyo, Japan
 2 Department of Radiological Technology, Graduate School of Health Sciences, Okayama University, Okayama, Japan

DOI:https://doi.org/10.1007/s40846-025-00967-y

URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s40846-025-00967-y

補足

※1 経皮水分蒸散量といい、TEWL(Transepidermal Water Loss)と略記されることがあります。

研究資金

本研究は、アルケア株式会社の支援により実施しました。

アルケア株式会社について

1953年に国産初の石膏ギプス包帯「スピードギプス」の開発・製造に成功し、1955年に創業しました。ケアをする人・ケアを受ける人の双方にとって「親切な製品をつくる」という創業当時の想いを受け継ぎ、褥瘡・創傷領域、看護領域、ストーマ領域、整形外科領域の4つの専門領域で、現場ニーズを製品・情報・サービスへと具現化し、価値を創出しています。予防から社会復帰に至るまでの医療のケアプロセスを看護から支えるインフラ企業として社会とつながり、「人に寄り添う" かんご "を、世界のスタンダードに。」することを目指して挑み続けてまいります。

【報道関係者の皆さまのお問い合わせ先】
アルケア株式会社 経営企画部 コーポレートコミュニケーション課 E-mail :pr@alcare.co.jp