皮膚機能のなかでも重要とされ、アレルギー物質などの体外からの異物侵入や体内からの水分蒸発を防ぐ役割をもつ「皮膚バリア機能」の低下がアトピーやアレルギーを引き起こすとされ、その診断には皮膚の状態を数値で表すことが有用だと言われています。しかし、皮膚状態(皮膚から蒸発する水分量、角層の厚さや水分量等)の測定は、汗を拭き取ったあとに一定の環境下で数十分程度同じ状態を保って測定を行わなければならないこと、特定箇所の解析には数日単位の時間を要するという課題があります。そのため、小児や寝たきりの高齢者の皮膚測定を行うことは特に難しく、臨床現場での採用は現実的ではありません。一般的に皮膚状態の測定は、目視と触診で診断がおこなわれているのが現状です。
ニュースリリース
2022年7月29日
【アルケア・岡山大学共同研究】皮膚を瞬時に数値化できる計算モデルを確立! ~皮膚疾患の予兆を捉え皮膚病を未然に防ぐ可能性へ~
アルケア株式会社(本社:東京都墨田区、代表取締役社長:伊藤 克己、以下「アルケア」)の価値創造部に在籍する上原 治(専門:生体計測技術)、岡山大学学術研究院保健学域放射線技術科学分野の中村 隆夫教授、楠原 俊昌助教の共同研究グループは、皮膚機能のなかでも重要とされる「皮膚バリア機能」に注目し、皮膚バリア機能の大部分を構成する角層の厚さと水分量の両方を瞬時に算出する計算モデルを確立しました。
角層の厚さや角層の水分量を測定する既存の装置は大掛かりで高価であり、測定に要する時間が30分ほどであることから臨床現場での採用が進んでいません。今回開発した計算モデルを利用すれば、瞬時に皮膚状態(角層の厚さや水分量)の数値化が可能になります。このメリットは「実験室内にとどまらず、臨床現場、また化粧品店や自宅など場所を選ばず簡単かつ瞬時に、見た目や触れてもわからない微細な皮膚状態の変化を捉えられる」ことです。これにより、皮膚疾患手前の予兆を捉え、必要な対策をとることで皮膚病を未然に防ぐこともできると期待されます。
皮膚疾患発症リスクの判定など臨床現場での活用はもちろんのこと、自身の肌状態を正確に把握し必要なスキンケアを選択するサポートなど、皮膚トラブルで悩む全ての人を救う可能性を秘めています。
本研究成果は、2022年4月27日「Advanced Biomedical Engineering」に掲載されました。
◆発表のポイント
・皮膚への「電気の流れやすさ」と「電気の溜まりやすさ」を測定し、角層の厚さと水分量の両方を瞬時に算出できる計算モデルを確立しました。
・見た目や触るだけではわからない、皮膚状態の微細な変化(角層の厚さや水分量の変化)を数値で表すことができます。
・研究が進むことで、皮膚疾患になる前の予兆を捉え皮膚病を未然に防ぐことが期待されます。
研究者からのコメント
アルケア株式会社の高い技術力と、私たちの生体電気インピーダンスに関する知見の融合により、角質の厚さと水分量を評価できる計算モデルを確立できました。皮膚バリア機能の評価法の一つとして、広く採用されることを期待しています。
岡山大学学術研究院保健学域 教授 中村隆夫
長年、岡山大学と共同研究を続けてきた結果が論文掲載という成果として現れて非常に嬉しく思います。これからは、研究成果を搭載した試作機が製品化され、皆さんに使っていただけるように推進していきます。
アルケア株式会社 価値創造部 上原 治
発表内容
<現状>
<研究成果の内容>
皮膚の状態を数値的に示して評価をするため、角層の厚さと水分量の両方を瞬時に算出する計算モデルを新たに開発しました。「電気の流れやすさ(抵抗)と溜まりやすさ(容量)により角層を表現できる」「電気の流れやすさと電気の溜まりやすさは角層の厚さが影響する」という先行研究から、「電気の流れやすさ」と「電気の溜まりやすさ」の値の組み合わせで角層の厚さと水分量を算出できると仮説を立てて検証し、信頼できる値が得られることを確認しました。
なお、測定にはアルケアが開発段階の皮膚測定機器を使用しました。体組成計などの仕組みに利用されている、生体電気インピーダンス法(電気の流れやすさを計測する)という分析方法を応用し、迅速かつ高精度な測定を行っています。
<社会的な意義>
皮膚バリア機能の大部分を占める角層の厚さと水分量を簡単かつ瞬時に数値化することが可能となり、皮膚状態を数値で表すことができる可能性を見出しました。このメリットは「実験室内にとどまらず、臨床現場、また化粧品店や自宅など場所を選ばず簡単かつ瞬時に、見た目や触れてもわからない微細な皮膚状態の変化を捉えられる」ことです。この計算モデルを取り入れた開発段階の皮膚測定機器が完成すると、自身の皮膚状態をいつでもどこでも正確に把握することができるようになります。
臨床現場においては、例えばアトピー性皮膚炎の診断根拠の構築や皮膚疾患の発生リスクの判定が行えることで、発症する手前の数値結果が出た場合は保湿を徹底するなどのリスクヘッジができ、皮膚疾患を未然に防げる可能性があります。また、各世代(小児・成人・高齢者)の健常な皮膚を数値化し皮膚状態の評価ツールを定めることなどにより、化粧品店・自宅などの日常生活のなかで皮膚状態をチェックし、状態に応じたスキンケアを自ら行い、肌を整えられることが一般的となるような研究発展につなげていきたいと考えます。
論文情報
論 文 名:Skin electrical impedance model for evaluation of the thickness and water content of the stratum corneum
掲 載 紙:Advanced Biomedical Engineering Vol. 11 (2022) p.98-108
著 者:Osamu Uehara*, Toshimasa Kusuhara**, Kenichi Matsuzaki*, Yoshitake Yamamoto***, Takao Nakamura**,
*Medical Engineering Laboratory, ALCARE CO., Ltd., Tokyo, Japan
**Department of Radiological Technology, Graduate School of Health Sciences , Okayama University, Okayama, Japan
*** Okayama University, Okayama, Japan
D O I: https://doi.org/10.14326/abe.11.98
U R L: https://abe-journal.org/issues/2022/04/27/682
研究資金
本研究は、アルケア株式会社の支援により実施しました。
アルケア株式会社 -つなぐ手あて、ひらくケア。-
アルケアは、やさしさや想いを大きな力に、ベストケア創造企業として、患者さんのこころに響く手あてをつなぎ、新たなケアをひらいていきます。予防から社会復帰にいたるまで、ケアをプロセス視点で捉え、整形外科領域、褥瘡・創傷領域、ストーマ領域、看護領域の4つの専門領域を展開しています。また、医療の専門領域で培ってきた基盤をもとに、運動器・皮膚領域において研究を重ねエビデンスを構築し、新たな価値を創造・提供して健康で豊かな医療福祉社会の実現に貢献してまいります。