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ニュースリリース

2023年2月 1日

【アルケア・岡山大学共同研究】皮膚からの水分蒸発の仕組みを明らかにし、蒸発量の推定モデルを確立!~皮膚疾患の予兆を捉え皮膚病を未然に防ぐ可能性へ~

アルケア株式会社(本社:東京都墨田区、代表取締役社長:伊藤 克己、以下「アルケア」)の価値創造部に在籍する上原 治(専門:生体計測技術)、岡山大学学術研究院保健学域放射線技術科学分野の中村 隆夫教授、楠原 俊昌助教の共同研究グループは、皮膚機能のなかでも重要とされる「皮膚バリア機能」に注目し、皮膚バリア機能の定量的な評価の実現を目指して研究を進めております。

今回、角層の厚さと角層の表面の水分量を計測した結果から、皮膚からの水分蒸発量を推定できる新たな計算モデルを確立しました。皮膚からの水分蒸発量は、皮膚バリア機能の評価をする値として長く用いられてきましたが、水分蒸発量を決定する仕組みは現状解明されていません。今回開発した計算モデルを利用すれば、「角層の厚さの変化」「角層の水分量の変化」のどちらが影響した数値かを示せる可能性があります。

◆発表のポイント

・皮膚機能のなかでも重要とされる「皮膚バリア機能」を評価する値「皮膚からの水分蒸発量※1」は、皮膚表面に当てた経表皮水分蒸散量計で評価しますが、皮膚内の何が影響しているかの仕組みは、これまでの研究で明らかにされていませんでした。
・本研究では「皮膚表面に当てた経表皮水分蒸散量計で測定される水分蒸発量は、皮膚の中のどのような水分の動きによるものか」の仕組みの仮説を立て、皮膚からの水分蒸発量を推定できる新たな計算モデルを確立しました。これにより、皮膚からの水分蒸発量が「角層の厚さの変化に影響したもの」か、もしくは「角層の水分量の変化に影響したもの」なのかを推定できる可能性があります。
・研究が進むことで、「皮膚バリア機能」を定量的に評価できる可能性が高くなり、皮膚科学、看護学、化粧品開発などの領域で非常に有用であると考えます。また、皮膚疾患になる前の予兆を捉え皮膚病を未然に防げることが期待されます。
・この研究成果は日本生体医工学会(JSMBE)の英文論文誌Advanced Biomedical EngineeringABE)の2023年12巻に掲載される予定です。

研究者からのコメント

皮膚バリア機能評価に皮膚からの水分蒸発量が用いられており、この蒸発量を決定する要素(角層の厚さ、角層の水分量)と仕組みについて検証し、そのモデルを確立しました。今回の研究結果が美容、疾患、加齢などあらゆる皮膚科学領域においてお役に立てればと思います。
岡山大学学術研究院保健学域 教授 中村 隆夫

中村隆夫 先生 岡山大学学術研究院保健学域教授

長年、岡山大学と共同研究を続けてきた結果、皮膚から蒸発する水分が数値化されるメカニズムの一端を解明し、論文掲載という成果として現れたことを非常にうれしく思います。研究成果を搭載した試作機を製品化し、皮膚を数値化して簡単に評価することを実現していきたいと思います。
アルケア株式会社 価値創造部 上原 治

上原治 アルケア株式会社 価値創造部

発表内容
<現状>

皮膚機能のなかでも重要とされ、アレルギー物質など体外からの異物侵入や体内からの水分蒸発を防ぐ役割をもつ「皮膚バリア機能」の低下が、アトピーやアレルギーを引き起こすとされています。「皮膚バリア機能」の評価には皮膚の状態を数値で表すことが有用とされ、経表皮水分蒸散量計で測定した「皮膚からの水分蒸発量」が用いられてきました。しかし、皮膚の表面から検出された「皮膚からの水分蒸発量」は、皮膚中の水分がどのように動いた後の結果なのか、その過程と数値が何を示しているのか仕組みは解明されていません。
そのため、皮膚からの水分蒸発量の測定値は、皮膚内の何が影響しているのか分かっていないことが現状です。

経表皮水分蒸散量計は、皮膚表面から蒸発する水分量を測定する

経表皮水分蒸散量計は、皮膚表面から蒸発する水分量を測定する

<研究成果の内容>

皮膚の中から外へ蒸発した水分を、皮膚表面に押し当てた経表皮水分蒸散量計で測定し、皮膚からの水分蒸発量としてどのように数値化されているかについての要因を明らかにし、皮膚からの水分蒸発量を推定するモデルを新たに開発しました。

仮説

・皮膚からの水分蒸発量は、「皮膚の表面から蒸発した水蒸気、つまり角層の表面にある自由水※2が蒸発して検出される」そして、「角層表面への水分の供給量に関係する角層の厚さと角層表面の自由水の量が皮膚からの水分蒸発量に関係がある」と仮説を立てました。

皮膚からの水分蒸発量について.png

・皮膚の中には多量の水分が存在し、角層がこの水分が外側へ出ていくことを防いでいます。しかし、完全に防ぐことはできず、角層を通過して角層表面から水分が蒸発していきます。角層表面から蒸発する水分は、角層の中で他の成分と結合せずに自由に動いている自由水が蒸発していくと考えられます。角層表面の自由水の量は角層表面の水分量から結合水の量※3を減算することで求めることができ、皮膚からの水分蒸発量の逆数(1/経表皮水分蒸散量)と角層の厚さに、高い相関関係が得られることが示されているという先行研究から、皮膚の中から角層の表面への水分の蒸発量は角層の厚さに関係があると考えられます。

皮膚の中から角層表面へ蒸発する水分量は角層の厚さに関係する(角層が厚いと蒸発は少なく、薄いと蒸発は多くなる)

皮膚の中から角層の表面へ蒸発する水分の量は角層の厚さに関係する(角層が厚いと蒸発は少なく、薄いと蒸発は多くなる)

検証

・共焦点レーザー顕微鏡と共焦点ラマン分光装置を使用して、角層の厚さと角層の表面の水分量を測定しました。
・皮膚からの水分蒸発量との関係を検証した結果、検証の相関係数は0.886、残差の実効値は8.18ポイントだったことから、現時点では定性的評価を行うことは可能であると考えました。

角層の厚さ、角層表面の水分量測定結果

<社会的な意義>

「皮膚バリア機能」の評価として用いられてきた、経表皮水分蒸散量計で測定した「皮膚からの水分蒸発量」が、「角層の厚さの変化に影響したもの」か、もしくは「角層の水分量の変化に影響したもの」なのかを推定できる可能性を見出しました。
これにより、臨床現場においては、発症する手前の数値結果が出た場合は保湿を徹底するなどのリスクの回避ができ、皮膚疾患を未然に防げる可能性があります。
また、日常生活内のスキンケアでは、どのようなケアをどのタイミングで行うのか、角層の厚さの変化や角層水分量の変化といった自分の皮膚状態に適した製品を選べるようになるなど選択肢が広がると考えます。
数値で皮膚状態が示されることで、見た目や感覚だけでは分からなかった状態が把握でき、現状に最適なスキンケアを自ら選択し、肌を整えられることが一般的となるような研究発展につなげてまいります。

論文情報

論 文 名:Transepidermal water loss estimation model for evaluating skin barrier function
掲 載 紙:Advanced Biomedical Engineering, Vol. 12 (2023) p.1-8
著   者:Osamu Uehara*, Toshimasa Kusuhara**, Takao Nakamura**
      *Medical Engineering Laboratory, ALCARE CO., Ltd., Tokyo, Japan
      **Department of Radiological Technology, Graduate School of Health Sciences, Okayama University, Okayama, Japan
D O I:https://doi.org/10.14326/abe.12.1リンク先は、2023年2月3日(金)0時に公開を予定しています)

補足・用語説明

1 経表皮水分蒸散量といい、TEWLと略記されることがあります。
2 皮膚中の水分には、自由水と結合水の2種類があります。自由水は、他の成分と結合せず自由に動きまわり、容易に蒸散してしまう水のことです。結合水は、水分をつかまえて離さずに角質層内部のうるおいを保つNMF(天然保湿因子)等と結合して安定している水のことで、皮膚中にとどまります。
3 結合水の割合は、先行研究において約25%と示されています。

研究資金

本研究は、アルケア株式会社の支援により実施しました。

アルケア株式会社 -つなぐ手あて、ひらくケア。-

アルケアは、やさしさや想いを大きな力に、ベストケア創造企業として、患者さんのこころに響く手あてをつなぎ、新たなケアをひらいていきます。予防から社会復帰にいたるまで、ケアをプロセス視点で捉え、整形外科領域、褥瘡・創傷領域、ストーマ領域、看護領域の4つの専門領域を展開しています。また、医療の専門領域で培ってきた基盤をもとに、運動器・皮膚領域において研究を重ねエビデンスを構築し、新たな価値を創造・提供して健康で豊かな医療福祉社会の実現に貢献してまいります。

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