オストメイトインタビュー

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佐々木 香織 さん(50代/女性 ストーマ歴3年)

インタビュイーの佐々木 香織さん

佐々木 香織 さん(50代/女性 ストーマ歴3年)

一時的ストーマ閉鎖後、排便障害やがんの転移と闘い、自らの意思で永久的ストーマを造設した佐々木さん。旅行や温泉も楽しめるようになり、自身の体験を踏まえてSNSやWebサイトで情報発信を続け、全国の仲間とつながって交流を深めています。

診断と治療:長男の一言がきっかけで永久的ストーマの造設を決意

フルタイムの仕事と2人の子育てを両立し、ワーキングマザーだった私は、誰がどこから見ても元気でした。しかし、健康診断で便潜血検査が陽性となり、2018年7月にステージ1の直腸がんであることがわかりました。そのときはがんと言われただけで頭がいっぱい…。「助かるなら」と手術を受け入れ、翌月、腹腔鏡手術でがんを切除し、一時的ストーマを造設しました。

3カ月ほどでストーマを閉鎖しましたが、その後排便障害が生じ、さらに1年も経たないうちに肺への転移が見つかり、本当に落ち込みました。肺の手術と術後の抗がん剤治療を受けたあとは排便障害が悪化し、トイレに1日30回も行く日が続きました。お尻が痛くて座っていられず、電車に乗るのも食事をするのも一苦労でした。痛みで夜も眠れず、苦しい時期を過ごしていました。

その頃はトイレが不安で外出も控えていたのですが、友人が会いに来てくれたとき、思い切って事情を話してからランチに行くことにしました。隠そうと思えば隠せますが、信頼できる人に理解してもらうことで我慢しなくてもできることが増えます。仕事に支障が出てくることもあったので、会社の上司にも事情を話して、在宅勤務に切り換えてもらいました。

あるとき、自宅でのオンライン会議も難しくなったのを見かねた長男から「前みたいにストーマのほうが良いんじゃない?」と言われたのがきっかけで、2021年の年明けに永久的ストーマの造設を決意しました。

私の発症からの経緯

2018年
  7月 直腸がんステージ1と診断
  8月 腹腔鏡手術で直腸がんを切除
  11月 一時的ストーマ閉鎖手術
2019年
  3月 肺転移が判明
  7月 胸腔鏡手術で肺転移の腫瘍を切除
  9月 抗がん剤治療をスタート
2020年
  3月 抗がん剤治療7クールを終了
2021年
  1月 永久的ストーマを造設
2022年
  4月 2度目の肺転移。胸腔鏡手術で切除
2023年
  2月 3度目の肺転移。胸腔鏡手術で切除
 12月 局所再発につき抗がん剤治療開始

旅行・温泉:飛行機では窓際の席も諦めない

ストーマにしたおかげで排便障害の悩みがなくなりました。最初の肺転移がわかってから大好きだった旅行も「自分が行けるときに行かなきゃ!」という気持ちが強くなり、最初は日帰り旅から始め、徐々に慣れて遠出も楽しめるようになりました。旅先では食べたいものを食べてワインも飲みます。オストメイトになった後、イギリス、ポルトガル、ギリシャと海外にも3回行きました。「飛行機に乗ると気圧でストーマ袋が膨らんで破裂するのではないか」と心配する方もいますが、装具が破裂することはありません。膨らみが気になるときはトイレで空気を抜けば解消できます。

ロングフライトになると、自由に席を立てない不安はあります。でも私は窓から景色を眺めるのが楽しみなので、窓際の席を諦めません。漏れが発生して機内の狭いトイレで着替えたこともありますが、預け入れの荷物だけでなく機内持ち込みの荷物の中にも交換用の装具や着替え一式、タオルなどを入れておけば対処できます。また、心配なことがあるときは事前に客室乗務員さんに「トイレが近いので」と話しておけば、協力してもらうこともできます。

飛行機の窓際の席に座る佐々木さん

オストメイトになってからの旅行は、家族や両親と行くか一人旅でしたが、先日、がん経験者の友人と女子旅をして、初めて家族以外の人と一緒に温泉に入りました。そして「人の体ってそんなに見ないよね」「タオルで隠せば大丈夫だね」という結論に至りました。悪いことはしていないし、装具をつけていれば衛生的にも問題ありません。

現在の活動:悩みを共有できる場を全国の仲間に提供したい

今はSNSや動画サイトを通じて闘病の経験を詳しく教えてくれる方々がいますが、私が一時的ストーマを造設した2018年当時は情報も少なく、助けられたのは、日本オストミー協会横浜市支部のオンライン会でした。がんだけではなく、さまざまな理由でオストメイトになった先輩方と話すことができ、「温泉には入れますか」と質問したら詳しく教えてくれました。失敗談や苦労話もあり、生の声を聞いて「1人じゃないんだ」と実感できたのは大きかったです。

私がSNSや動画サイトで「大腸がんカロリーナ」として発信を始めたときは自分の体験を伝えることで「みなさんも検査を受けて」と啓蒙し、「がん=死」ではないこと、転移しても元気に過ごせる場合があることを伝えたいという思いがありました。また、闘病中の仲間が情報を必要としているとわかり、特に排便障害の動画には「自分だけじゃなかったんだ」「大変だよね」など多くの反響がありました。やはり排泄のことは家族や親しい人にも言いにくいし、言ったところでなかなか理解してもらえないですからね。また、ネットでは誤情報や個人差のある情報が出てくることも多いので、鵜呑みにせず有益な情報を見極めてほしいとも思っています。2023年5月には女性を対象とした会員制SNS「ピアリング・ブルー」を立ち上げました。全国の仲間とつながって悩みを共有し、不安を解消できるよう活動していきたいです。

私にとってストーマやストーマ装具は「できないことを補ってくれるパーツの1つ」なので、オストメイトになったことで、できなくなったことや諦めたことはほぼありません。私が行動できたのは、不安よりもやりたい気持ちが強いからです。できないことを数えるよりも、どうやったらできるかを考えて工夫し、やってみることが大切だと考えています。

ピアリング・ブルー

クラウドファンディングの支援を受け、大腸がんなど消化器がんに向き合う女性のためのピアサポート・コミュニティ「ピアリング・ブルー」を立ち上げました。2023年10月末には待望のアプリ版もリリースされました。

https://bleu.peer-ring.com/

(発行:2024年3月)

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